8月のうまいもん/淡路島の鱧

名仲卸し人の後継者が直送する大物鱧
ここ数年、「さかばやし」では夏のうまいもんとして淡路島の由良漁港で水揚げされた鱧を提供して来ました。それは巷の料理屋でよく使われている一般的な800gサイズではなく、1.5kg前後の大物鱧で、脂の乗りがよく、甘みもある事から「さかばやし」の鱧料理には高い評価が寄せられていたのです。大物鱧はどこでも入手できるかというとそうではなく、漁協の仲卸しの嗜好も大きく左右し、大きな鱧を大味と誤解せずに、希少品として高くセリ落としてくれるから名物的料理として提供できていたのです。ところが、由良漁協でいつもの大物鱧を送って来てくれていた「海幸丸水産」の橋本一彦さんが、昨秋急逝されました。由良漁港の名物的な仲卸し人だっただけに残念で、「あの大物鱧がやって来ないのでは・・・」と危機感を募らせていました。今年の5月に多くの料理人や親しい人らが「さかばやし」に集い、「橋本一彦さんを偲ぶ会」を実施。その時に彼の長男の橋本一将さんが由良の魚介類を沢山提供してくれ、「海幸丸水産」の事業を継ぐと宣言してくれたので、ホッと胸をなでおろした次第です。その後、「さかばやし」の大谷直也料理長と橋本一将さんとの間で相談が成され、以前と同じような大物鱧を入荷できる事になりました。
鱧は、主に西日本で水揚げされる魚で、最も有名なのは淡路島。特に由良や沼島がメジャーどころといわれています。徳島や愛媛の四国地域や和歌山、山口、そして福岡・長崎の九州地区も有名産地として名を馳せますが、通にいわせると淡路島の鱧を凌ぐものはないとまで高く評されているようです。瀬戸内の鱧がいいとされるのは、海の環境が大きく影響しているようで、波が穏やかで餌が豊富なのがその因だそうです。だから身の締まりがよく、脂乗りもいいのでしょう。由良漁港で名を馳せていた故橋本一彦さんは、さらに「砂泥底で、皮が薄くて柔らかい」と由良の鱧を自慢していました。鱧は、海底深くに潜って暮らしている魚のため、筋肉や背骨が強く、その身の中に細かい骨が無数に走っています。某研究者が骨格標本を作った際に数えたら、何んと小骨が3421本もあったらしいのです。この骨の多い魚を食べるには、〝鱧の骨切り“と呼ばれる職人技が必要。熟練の料理人は一寸(3.03cm)の間に24回も包丁を入れ、皮を残したまま上手く包丁を止めて骨切りを行います。首都圏と比べると、関西で鱧を扱う店が多いのは、鱧自体の値段の違いもありますが、根本には骨切りをできる職人が多いからだといわれています。そもそも鱧の骨切りは、京の都で生み出され、関西一円に広まりました。寛政7年(1795)に出版した「海鰻(はむ)百珍」には、その技が紹介され、骨切りなる言葉も使われています。同書には、骨切りを施した料理が7種出ている事から見てもすでに鱧の骨切りは関西では広まっていたのかもしれません。故橋本一彦さんは、旨い鱧は「べっぴんさん」と表現して由良の海に棲む鱧は骨も細いと評していました。「だから骨切りさえやりやすいのだ」と話します。そんなベテラン仲卸しからしたら由良の鱧は宝物扱いで、しかも2kg前後の鱧はなかなか水揚げされないとまで言っていたのです。「大きな鱧が釣れると、漁師は買って欲しそうな目で見つめる」そうなのです。大きければ何でもいいかというとそうでもなく、「口の先から目までの間が短いのがべっぴんさんで、それが旨い!」と教えてくれました。そんな名物仲卸しの意志を継承するのが、息子の橋本一将さんで、「親父レベルのべっぴんさんの鱧をセリ落とします」と語ってくれています。
ところで「さかばやし」では、これまでと同じく、8月のうまいもんに由良の大物鱧を選定し、会席料理の一部や一品料理で提供します。さらに「鱧のしゃぶしゃぶ」(要予約)の水炊き鍋も提供する予定です。鱧の名産地・由良漁港から直送される新鮮な鱧料理をぜひこの期間にお楽しみください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2026年8月
料理長おすすめの「淡路島の鱧の一品」
〈淡路島産〉
■鱧と水茄子みぞれ煮 1,000円
■鱧湯引き 1,100円
■鱧と野菜の天ぷら 2,500円
■鱧しゃぶ小鍋 2,100円
追加 雑炊セット 850円
※おすすめの一品は前日15時までのご予約にて承ります。
※価格は税込価格です。
※写真はイメージです。
