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6月のうまいもん/泉州水茄子

今月のうまいもん神戸酒心館

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その瑞々しさと灰汁の少なさ、皮の薄さから生でも食せる茄子に

 野菜でもなかなか生で食しにくい素材は幾つかあります。そのうちの一つが茄子でしょう。茄子は灰汁があって皮も厚く口残りがするために生で食べることはほぼありません。ところが、水茄子に限ってはそうではなく、むしろ食べ方は生か、浅漬けに限っているようです。水茄子は、その名の通り水分が多く、灰汁も少なく、皮も薄いので口残りを気にすることがありません。だから生で食べられる野菜に挙げられているのです。
 水茄子は、最近、千葉や徳島でも栽培しているようですが、土壌や気候が異なるせいか、泉州産には及ばないとの評価がされており、まだまだ泉州の名産の域からは脱していません。それだけに首都圏辺りの人には、まだ馴染みのない食材かもしれません。水茄子の名産地・泉佐野で聞くと、「かつては農作業の途中でそれをかじって喉の渇きを潤していた」そうです。それだけ水茄子が水分を含む証拠です。水茄子というだけに栽培にはかなりの水が必要です。泉佐野を始め、泉州には溜め池が多くあり、栽培に必要な豊富な水があったため、これだけ水茄子農家が生まれたのだと思われます。
 水茄子の旬は、ご存知のように夏。泉佐野のような町を挙げて栽培し、出荷している地域は、名産地だけにハウスで年中栽培している農家も少なくありません。本来は夏の農産物なのです。ハウス栽培では4〜7月あたりが、露地物は6〜9月あたりがその出荷時期。一般的には5〜8月頃を旬といっていいでしょう。以前、私は、泉佐野の農家で話を聞いたことがあります。農家の人が言うには「ハウス内の水茄子は、どれも艶があってきれいに見えますが、この艶は午前9時頃には薄れて行くので早朝の出荷作業は欠かせません」とのこと。その昔は、富田林が産地として知られているようです。ところが「日根野で丸い茄子を導入し、やがてそれが泉佐野の町中にも伝播して水茄子栽培を盛んに行うようになった」らしいのです。「大阪市内で水茄子が旨い」という噂が立ち、中央卸売市場から求めて来るようになり、いつしか全国宅配するまでになったと話していました。私個人の記憶で申し訳ありませんが、水茄子が全国区になったのはバブル期ではないかと思います。某ビールのCMで、生で水茄子をかじるシーンが流れ、「茄子を生で食すなんて!」とびっくりして話題になったのがその原因だと記憶しています。水茄子は生か、浅漬けが定番となっていますが、意外にも調理をすると旨く、「紅宝石」(神戸・元町の中華料理店)の李順華さんは、「麻婆茄子には、むしろ水茄子の方が向いている」と言っているくらいです。
 ところで「さかばやし」では、6月のうまいもんに、泉州の水茄子をテーマ食材とし、泉佐野の有名農家「三浦農園」より直送してもらい、今月の献立にてお楽しみいただきます。「三浦農園」は、泉佐野で江戸時代から続く農家。三浦淳さんの祖父が創出した「皮が薄くて瑞々した水茄子」が自慢で、独特の栽培方法と自家採取した種を受け継ぎながらいい水茄子を産しています。6月は、そんな「三浦農園」の泉州水茄子を使って会席料理の一部や一品料理にして提供しますので、ぜひ夏の旬の味わいをお楽しみください。
(文/フ―ドジャーナリスト・曽我和弘)

料理長おすすめの一品
■水茄子の揚げ浸し       700円
■水茄子のぬか漬け       800円
■水茄子のふくめ煮      1,000円
※おすすめの一品は予約にて承ります。価格は税込価格です。