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7月のうまいもん/明石蛸

今月のうまいもんさかばやし

明石蛸s

激減高騰する地の名産だが、蛸漁応援の意味でも食べたい!

 「蛸をテーマにしたイベントは、なかなか難しいのでは…」。かつて「さかばやし」で半夏生(はんげしょう)のイベントを企画した時に、ある農水関係者からそんな言葉を投げ掛けられました。彼らの論理も納得のいくもので、「鱧やフグは高級魚との認識が高く、人気もあるので集客できるが、いくら良い蛸を持って来たとしても身近すぎる食材なので注目が集まるか、どうかわからない」との見解でした。ところが、蛸でイベントを開催してみるとびっくり。「蛸が大好物」との声も多く、あっという間に席が埋まったのです。
 そもそも神戸は、海に面した街。しかし貿易港の印象が強く、漁業イメージは薄いのは事実。加えて近くに全国区の名を轟かせる明石浦漁港や淡路島があるため、魚はそちらをとの意識があるのかもしれません。『明石の魚』として名を馳す明石浦漁港ですが、多くの魚種の中で象徴的なものといえば、蛸と鯛。漁協の人の話では、明石の名産は「凧(たこ)に乗り(海苔)たい(鯛)」と覚えるのがいいらしいのです。
 俗に『明石蛸』と呼ばれるものは、明石海峡周辺から明石沖で獲られたマダコを指します。明石海峡には、林崎沖に鹿之瀬と呼ばれる海底丘陵が存在し、そこにはプランクトンがいっぱいで、おまけに海老や蟹といった蛸にとって格好の餌が豊富にあります。そして潮流は速く、それに流されないようにするためには、太く短い足が必要となるのです。これは蛸に限った喩えではないでしょうが、明石の魚介類はグルメなスポーツマンと称されているくらいです。
 歴史を遡ると、弥生時代の蛸壺が発掘されているほどで、聞けば2000年前辺りから明石では蛸を獲っていたとの事。弥生時代の蛸壺を見ても今とさほど変わらない形であることから、もともと明石は蛸壺漁が盛んだったことがわかります。現在は小型船による底曳き網漁が主流となっているそうですが、さりとて蛸壺漁や一本釣り漁を行っている漁師もまだまだ健在で、聞けば「蛸壺漁は身体に傷をつけず、ストレスもかからない良い漁法」のようです。
 蛸は年中、魚屋やスーパーの鮮魚コーナーで見かける食材ですが、旬は夏。6月から8月にかけては麦藁蛸(むぎわらだこ)と呼ばれるいいものが獲れるとされています。では、今頃は沢山獲れているのだろうと思いきや、実は近年蛸が不漁になっています。明石の蛸漁は、年間1000t前後だったようですが、昨年は激減。理由はかつての乱獲や温暖化の影響とも言われてはいますが、海がきれいになったのも一因。窒素やリンという『栄養塩』が減ったことでプランクトンも減少し、蛸の餌がなくなったとの声も聞こえて来ます。何はともあれ、明確な原因がはっきりしないのも困ったもの。このままでは明石の名産と言い切れなくなるくらい減っていると話す関係者も。地元では海底耕耘(かいていこううん)したり、きれいになりすぎた海に排水を流すなど様々な手段を講じていますが、成果はまだまだ先との話でした。漁獲量が少なければ、自ずと値段はアップして行きます。飲食店でも明石蛸は入れたいが、値段が高騰しては…と頭を抱えています。
 そんな環境下にありながらも「さかばやし」では、半夏生がある7月に『今月のうまいもん』として明石蛸をテーマ食材としました。もともと半夏生は関西の農家の習わしで、この日に蛸を食べると、稲が蛸足のように根づくといわれて来ました。そんないかにも関西らしい風習のある7月に、獲れなくなった明石蛸を何とか工面し、会席料理の一部や一品料理にてお楽しみいただきます。事前にご予約いただければ、「蛸のしゃぶしゃぶ」なんてユニークな料理をご提供することも可能です。郷土の名産と呼ぶべき明石蛸を食べながら暑い7月を乗り切ろうではありませんか。

(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2023年7月

料理長おすすめ「明石蛸」の一品料理
明石蛸の湯引き・明石蛸の燻製・明石蛸の唐揚げ・純米吟醸01as
■明石蛸の燻製        1,300円
■明石蛸と野菜の炊き合わせ  1,400円
■明石蛸の柔らか煮      1,600円
■明石蛸の唐揚げ       1,600円
※おすすめの一品は事前のご予約にて承ります。
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※写真はイメージです。