神戸酒心館

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3月のうまいもん/酒粕

今月のうまいもんさかばやし

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春の苦みと冬の名残の競演
 三月は旬の食材にとって厄介な季節です。冬のものは終盤に向かい、野菜などはまだ芽吹いておらず土の中。そのため、昔から“春は苦みを盛れ”なんていわれます。ここでいう苦みとは山菜の事。冬の間に溜め込んだ老廃物を出し、身体を目覚めされる意味を持っています。言い代えれば、苦みのある山菜ぐらいしか、これといった食材はなく、料理人は苦肉の策として山菜を用いると表現してもおかしくはありません。だから冒頭の言葉のようになるのです。かといって山菜の旨みも捨てたものではなく、タラの芽・うるい・こごみ・せり・わらびなどは春にこそ味わいたい山の幸でもあるのです。三月の酒心館会席の主菜にある「黒毛和牛と山菜すきしゃぶ小鍋」は、春の苦みと牛肉のだしがマッチし、ぜひともこの時季にこそ味わいたい一品になっています。
 弥生三月_、季節は春とはいえ、まだまだ肌寒さも残るのがこの時季の特徴の一つ。三寒四温とはよくいったもので、三日程寒い日が続いた後に暖かい日が四日続くとの寒暖周期に指します。本来は中国や朝鮮の冬の気候現象を表した言葉ですが、日本の冬にはそれが合わず、むしろ春先に使われる事が多いように思えます。
 冬のうまいもんといえば、灘五郷地域ではやはり酒粕。日本一の清酒生産量を誇る灘五郷地域では清酒の副産物である酒粕を食材や調味料として用い、酒の香りが漂う和食が古くから食べられて来ました。最も有名なのが粕汁で、だしに酒粕を溶かし、味噌や醤油で調味するそれは、関西で愛される冬の一椀でもあります。神戸市では学校給食に出される程、郷土の味とし親しまれており、農林水産省「うちの郷土料理」にも粕汁が兵庫県の郷土料理として載っているくらい有名な酒粕料理になっています。
 ところが、食文化の多様化によって酒粕文化が希薄になったのも事実。それではせっかく連綿と引き継がれて来た地元の食文化がなくなってしまうとばかりに神戸酒心館や神戸・大阪の名店料理人とともに毎冬、酒粕プロジェクトを催し、酒粕文化継承に力を注いで来ました。大阪樟蔭女子大学の学生達を巻き込んで新たな酒粕料理創作を行うのもその一環。将来の食文化を担う若き女性にその創作を託す事で希薄になりかけていた酒粕文化を盛り上げてもらおうと企画しています。
 創作の対象は、同大学のフードスタディを専攻する三年生。ライフプランニング学科の授業「フードメディア演習」の中で酒粕文化を勉強し、新たなメニューづくりに挑戦してもらいます。プレゼンテーションで出来のよかった作品は、1月27日の酒粕プロジェクト発表会でマスコミ陣を前に発表・試食してもらうだけでなく、「さかばやし」の2~3月の料理としてメニュー化します(要予約にて提供)。本年度栄えある作品に選ばれたのが、長野由依さん・松波鈴香さん・宮本朋花さん・牛山美咲さんが考えた「恵の福包~湯葉と酒粕の慶び~」です。
 これは中国では餃子といえば、蒸し餃子か、水餃子の事で、献上品を指す点に端を発した発想で考えました。その蒸し餃子は酒粕を用いて和風に仕上げた料理になっています。昨今の大学生は、SDGsの観点から考えるのが好きで、献上品モデルの蒸し餃子の中味をあえて残りかすで作ろうと発想しました。具材には豆腐の副産物・おからと酒粕、豚肉から派生するミンチ肉で構成。そこに旨みをつける意味で海老と、食感を持たせる蓮根を加えています。中華イメージを脱却させるためにそれらのタネを湯葉で奉書風に包み、人参と大根で熨斗風にデザインして仕上げています。この和風餃子を酒粕・醤油・みりん・白味噌で合わせたタレに漬けて食べるか、もしくは酒粕酢(「三ツ判山吹」)に漬けるかで印象を変えて提案しています。女子大生らしいユニークな発想は、きっとこれからの酒粕文化に一石を投じてくれるに違いありません。
 「さかばやし」では、二月に引き続いて三月も今月のうまいもんに「酒粕」を選定し、会席料理の一部や一品料理を彩ります。定石の粕汁や酒屋鍋は勿論の事、女子大生作品や春の山菜と合わせた一品もありますので、ぜひ春先の食をお楽しみください。

(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2026年3月

料理長おすすめ「酒粕料理」の一品
■酒粕酢 春水雲           750円
■酒粕ちー寿(チーズ)        880円
■山菜の酒粕白衣和え         900円
■八尾若牛蒡と酒粕のかき揚げ    1,000円
■帆立貝の酒粕和え         1,100円
■粕汁おでん            1,400円
■粕汁小鍋             1,600円
※おすすめの一品は予約にて承ります。価格は税込価格です。
※写真はイメージです

大阪樟蔭女子大学学生考案の一品
■恵の福包~湯葉と酒粕の慶び~ 1,500(円)
(豚ミンチと酒粕の湯葉包み)
※3日前までのご予約が必要です。