10月のうまいもん/足赤海老

その旨さは車海老に匹敵する〝幻の名素材″
秋になると、淡路島や和歌山、徳島などで足赤海老が水揚げされます。この足赤海老が〝幻の海老″と称される理由は、大半が地元で消費され、高級店へと直行するからです。漁獲量も少なく、海老自体も弱いので天然魚介類としてはそこまでメジャーになりきらないようです。しかも多くが産地消費とあらば、一般流通もそんなに望めないはず。この足赤海老は、なかなかのスグレモノで、その旨さは車海老に匹敵するほど。以前、徳島県の漁師にアンケート調査をした結果、「旨いのは①伊勢海老②車海老③足赤海老の順」と答えた人が多かったようです。
元来、足赤海老は、インド太平洋沿岸の温暖な海域に分布する大型海老で、日本では関東以西の内湾でよく見られます。最近は関東でも少しずつ増えているようですが、どちらかというと西日本に多い海老だとか。クルマエビ科に属しており、大きさも15〜20cmと車海老と同サイズ。ただ縞模様が明瞭でないのと触覚に白い縞がある点が異なっており、脚が赤く、紅白の縞模様がある事から、俗に「アシアカエビ」と呼ばれています。
私が足赤海老を知ったのは20年前くらい。伊料理店の店主と食材を求めて淡路島の由良漁港を訪れた折りに「海幸丸水産」(仲卸し)の橋本一彦さんより薦めてもらったのがきっかけです。橋本さんは、「高価な車海老と比べると比較的安く入るのがいい。柔らかな身で甘みもあって、新鮮なものは車海老より甘みが濃厚」と言って私達に刺身を料理として出してくれました。橋本さんが推す通り、生で食すとプリプリした食感で、上品な味。深い旨みが舌に伝わって来るスグレモノでした。「焼いても旨く、しっとりした身から噛む毎に旨みと香ばしさが伝わってきます。造りにしても焼いてもよし、煮ても揚げてもいい万能タイプの素材です」と橋本さんは地元で獲れた足赤海老について解説してくれたのを覚えています。
我々は、この車海老の仲間をその身体の特徴から「アシアカエビ」と呼んでいますが、所によっては「アカアシエビ」「アカシマエビ」とも呼ぶようで、京都の日本海側ではなぜか「タヌキ」と呼んでいます。正式名称は「クマエビ」で、どうやら熊を連想するほど獰猛(どうもう)故にそのように名づけられたとも伝えられているのです。
クマエビは、体長が20cm前後。黒褐色から茶褐色をし、背面から見ると黒っぽく思えるほど。脚が赤いので多くは「足赤海老」と称します。関西では淡路島・大阪府・和歌山県、徳島県で多く水揚げされており、特に紀伊水道辺りで獲れるものがいいといわれます。そう言えば、由良漁港も紀伊水道に面しているので、いい足赤海老が揚がるのだと思われます。紀州では、雑賀崎、田野浦、海南、戸崎の漁協が足赤海老を共同ブランドにする動きも。2010年には、和歌山県と和歌山市、海南市の漁協が一体となってPRしたので、足赤海老=紀伊水道産のイメージが付いたのかもしれません。
橋本さんをはじめ、淡路島や和歌山の漁協の人達が口を揃えて言うには、「特に活け、生の旨さは特筆すべき。調理しても味噌と身の旨みをいかして使えば、いい料理になる」のだそう。漁師の中には、「車海老と比べると安いのは、正式名称で書くと『ル』が足りないから」という方もいます。確かに「クルマエビ」と「クマエビ」では「ル」がないのが差のようです(笑)。
ところで「さかばやし」では、10月になると多く水揚げされるという足赤海老を今月のうまいもんに選定しました。会席料理や一品料理として提供して秋の素材をふんだんに取り入れていく予定です。大きさも美味しさも車海老に匹敵するとされる関西の名品「足赤海老」をぜひともこの機会にご堪能ください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2025年10月
料理長おすすめの「足赤海老」
■足赤海老とふろふき大根 950円
■足赤海老の造り 1,600円
■足赤海老酒盗焼き 1,850円
※おすすめの一品は前日15時までのご予約にて承ります。
※価格は税込価格です。
※写真はイメージです。
