9月のうまいもん/神戸産いちじく

いちじくを日本料理で表現
「いちじくツアーに○○まで行って来た」。そんな声をよく耳にします。私からすると、「観光バスでそんな遠くまで行かなくてもいいのに」と思ってしまうのです。なぜなら神戸市は、全国にその名を轟かせるいちじくの名産地だから。神戸市の中でも西区の伊川谷町・神出町・平野町・岩岡町では約60軒強の農家がいちじくを栽培しており、令和2年の調べによると、約17haの圃場で約320tを出荷しています。元来、いちじくは雨に弱く、日持ちもしないので、輸送に時間がかかると大変。ですので、圃場から消費地が近いに越した事はありません。神戸市西区は、住宅地も多く、繁華街も近い事からいちじく栽培に適した地といえるでしょう。
県別に分けると、いちじく生産地は、①和歌山②愛知③大阪④兵庫の順。全国の12%を兵庫県産が占めており、その中でも神戸市と川西市が名産地といわれています。川西のいちじくは昔からブランドとされており、今でも産地として名を轟かせてはいますが、実は生産量は神戸の方が上で、その栽培法となる一文字整枝は神戸で誕生した方法で、現在そのやり方がいちじく栽培の主流を成しているほど。いわば神戸が全国のいちじく栽培をリードしていると言っても過言ではないのです。
西区の特産品「神戸いちじく」は、とろける食感と濃厚な甘みに特徴づけられています。その秘密は完熟を待って木から収獲して出荷する事にあります。和歌山産も有名ですが、こちらは消費地が遠いために早めに木から収獲して輸送中に完熟になるように計算して出荷しているそう。だからどうしても皮が硬くなるのだと専門家は話します。「どうせ皮を剥いて食べるのだから一緒」と思うことは当然のことかもしれません。しかしながら、完熟を待って出荷した神戸のいちじくは、皮ごと丸かじりできます。「JA兵庫六甲 神戸西いちじく部会」の部会長を務める西馬良一さんは、「いちじくを最も美味しく食べるには、完熟を丸かじりする事」と言います。外皮が赤褐色になり、へその部分が少し開いて来ると、完熟の証。完熟になると甘みが強く、果肉も皮も柔らかくなります。いちじくの皮には細かい毛がありますが、気になる人は塩をまぶしてこすって水洗いをすれば大丈夫。こうする事で表面の毛やざらつきを取る事ができます。
日本では、いちじくは生で食すのが断然多いのでしょうが、海外では干して使用(ドライいちじく)したり、ジャムにして食べるのが大半。フランス料理では、ソースに使ったりもします。ところが和食界においては、会席料理の甘味に用いるのが大半で、さまざまな料理に用いることは少ししかありません。「さかばやし」では、地元で良質のいちじくが仕入れることができるため、甘味利用だけでは勿体ないとばかりに食材として利用し、9月の会席料理で提供いたします。9月の「灘会席」にラインナップされているだけでもいちじくの酒粕クリーム和え」、「いちじくの揚げ出し」、「いちじくと秋鯖酢締め」とあってなかなかユニーク。新鮮ないちじくを用いる事で甘みの出た一品一品になっているようです。中でも「いちじくの揚げ出し」は、和食ではよく作るパターンで、揚げる事でいちじくの甘みが高まり、それが天だしにマッチして豆腐や茄子の揚げ出しでは得られない旨さを発します。
今回「さかばやし」では、8月19日にマスコミ関係者にお越しいただき、神戸産いちじくを使った料理の記者発表会を実施。いち早く記者に試食してもらい、高い評価を得ました。9月のうまいもんは神戸いちじくをテーマ食材として、神戸市西区のいちじく農家からJA兵庫六甲を通じて新鮮ないちじくを直送いただき、それを会席料理の一部や一品料理に用います。神戸市西区のいちじく農家の方々が昼夜惜しまず栽培した「神戸いちじく」をぜひこの機会にご賞味ください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2025年9月
料理長おすすめの「神戸産いちじく」
■いちじく酒粕クリーム和え 650円
■いちじくの天婦羅 700円
■いちじく揚げ出し 750円
■いちじくと秋鯖の酢〆 900円
※おすすめの一品は前日15時までのご予約にて承ります。
※価格は税込価格です。
※写真はイメージです。
