6月のうまいもん/泉佐野産水茄子
/その瑞々しさがクセになる!
暑くなって来ると、関西では水茄子を食するシーンがよく見られます。水茄子は元来、泉州地域の産物で、茄子類には珍しく、生で食せるもの。茄子は灰汁が強く生食には向かないとされていますが、水茄子は灰汁がほとんどないのが特徴。どっぷりと丸みを帯びた形状で、皮が薄くて柔らかく、ほのかな甘みもあるのでサラダのように生で使うか、浅漬けにして味わう事でも知られています。
今でこそ関西では有名な食材ですが、広く知られるようになったのはバブル期あたりから。テレビでは生でかじるシーンが映し出され、「茄子を生で味わえるなんて!」と評判になってから一気にブレイクしたようです。水茄子の歴史を紐解くと意外と古く、室町期の「庭訓往来」には、〝澤茄子″と書いて「みつなす」と読む記述が見られます。泉州特有の茄子らしく、その発祥は日根郡澤村(貝塚市)とも、上之郷村(泉佐野市)とも伝えられています。江戸期には本格的栽培が行われていたようですが、果物に近い扱いで、バブル期前でも地元(泉佐野)で聞くと、農作業の合間の水分補給として用いられたようなのです。
水茄子は、現在大阪府南部にあたる泉州地域で産されています。泉佐野市は、風土に恵まれ、水も多くある事からその中でも評価の高い水茄子が収獲されると有名で、「さかばやし」の大谷直也料理長は、「包丁を入れただけで泉佐野産かどうかわかる」とまで言い、その品質の良さに惚れ込んで6月のうまいもんに選定しているくらいです。特に大阪のラジオ番組で共演したのがきっかけで、泉佐野の水茄子農家・辻裕男さんと知り合い、水茄子を農家より産地直送で仕入れができるようになったために先程の発言をするまでに至ったのでしょう。また、大谷料理長は、泉佐野市農林水産課が地場野菜のブランド化を推進すべく実施している泉佐野産(もん)商品化プロジェクトにも積極的に参加し、泉佐野産水茄子を使ったレシピづくりも行なっています。昨夏に「さかばやし」の新しいメニューとしてお目見得した「水茄子蕎麦」はその創作成果。生か浅漬けでの使用が一般的だった水茄子の調理方法の幅を広げようとの企画から誕生した大谷料理長ならではの創作料理です。「水茄子蕎麦」は、夏の麺類にふさわしいぶっかけタイプ。泉佐野産水茄子がそばのだしをたっぷり吸って新たな魅力を発します。そばの香りと水茄子の旨みを一緒に味わうといった今までありそうでなかった料理なのです。泉佐野市役所HPに掲出後、その評判が高かったのと、周囲からの薦めもあって「さかばやし」の夏季限定料理として提供しました。生感覚で味わう泉佐野産水茄子のフレッシュさが、うまく和食に溶け込んで昨夏、販売を開始したところ、大変反響も大きかったようです。その評判を再びというわけではありませんが、今年も6月から夏期中までメニュー化して登場しています。
泉佐野では、3〜6月が促成栽培(ハウス栽培)を、そして露地ものが7〜9月まで出て来て市場を賑わせます。JA大阪泉州にて生産出荷協議会の会長をも務める辻裕男さんは、水茄子栽培の専門家。夏季だけではなく、11〜12月のギフト用として超促成栽培も行うほどで、まさに主力作物としてその品質を保っています。近年では千葉県や徳島県・高知県でも水茄子を栽培しているようですが、水茄子栽培の達人・辻さんに言わせると「形は瓜二つでも皮も果肉も硬くて浅漬けにしても乳酸発酵できずに長茄子と同じような漬物になってしまった経験がある」と手厳しい評価も。「やっぱり泉佐野産はいい」と話していました。
ところで泉佐野市では、水茄子を生か、浅漬けに使用するだけでは勿体ないとばかりに昨年から水茄子を使用した様々な料理の推進を行っています。「さかばやし」もそのプロジェクトに参加し、大谷料理長が数々の水茄子料理を誕生させています。長茄子の天ぷらは油を吸って重たくなりますが、水茄子は水分を多く含むために天ぷらにしてもそこまで油が入らず、あっさりと味わえます。そんな利点もいかして、6月はうまいもんとして泉佐野産水茄子をテーマ食材として取り上げ、会席料理や一品料理で様々にお楽しみいただく予定です。勿論、評判の「水茄子蕎麦」も提供する予定になっています。ぜひこの機会に関西の夏の名物食材・水茄子をお試しください。
(文/フ―ドジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめの一品
【今月の水なすは泉佐野農家 辻裕男さんが育てた水なすを使用しております】
■泉佐野産水茄子揚げ出し 700円
■泉佐野産水茄子と魚素麺 旨出汁掛け 750円
■泉佐野産水茄子含め煮と野菜の炊き合わせ 850円
■泉佐野産水茄子と黒毛和牛すきしゃぶ小鍋 2900円
※おすすめの一品は予約にて承ります。価格は税込価格です。