【第143回酒蔵文化道場】神戸と映画の素敵な関係 <レポート有>
第143回
酒蔵文化道場
≪題目≫
神戸と映画の素敵な関係
≪語り手≫
一般財団法人神戸観光局 神戸フィルムオフィス
課長
土屋 千佳 氏
≪内容≫
最近、神戸で撮影された映画やドラマを目にすることが多くありませんか?
神戸で撮影が行われることの意義や、ロケーションのポイント、
撮影された作品のことなどをお話ししたいと思います。
神戸フィルムオフィスについてはこちらをご覧ください。
神戸フィルムオフィス
≪開催について≫
◆2025年9月5日(金) 16:00〜
講演レポート
作成:鷲尾圭司氏
≪経歴≫
神戸市生まれ。甲南大学卒業後、東京に移住、映画・テレビ界隈の取材やコラム執筆に従事。2003年に神戸に戻り、設立3年目の「神戸フィルムオフィス」(現(一財)神戸観光局内)に就職。以来、フィルムコミッショナーとして、撮影の誘致・支援、神戸のPRに努める。
≪講演レポート≫
映画はお馴染みでしょうが、フィルムコミッションというのは聞かれたことはあるでしょうか。映画(フィルム)を作る上で、撮影現場を設営するにあたって様々な準備が必要です。それを現地で支援するのがフィルムコミションです。
映画の歴史をたどると、1920-50年代では、ハリウッドでのスタジオ内撮影が中心で「雨に唄えば」や「王様と私」などが製作されていました。1950-60年代になるとテレビが普及するとともに、映画においてはワイドスクリーンやカラー映像などリアリティが求められるようになり、さまざまな技術革新もあってロケ撮影が増えてきました。「俺たちに明日はない」や「卒業」などのロケ撮影にはスタジオにはない苦労が出てきました。
スタジオという限定され自由に活動できる場所ではない一般空間には、法律による制限や交通事情、住民との関係性など多くの課題があります。映画撮影を一緒に楽しもうという地域もあれば、迷惑行為だとして忌避する場面もあります。そんな諸課題を解決するため、フィルムコミッションの支援が必要となってきました。
そのため、1969年に行政機関では初めて「コロラド・フィルムコミッション」が設立され、街ロケの現場手続きを支援し、「イージーライダー」や「タクシードライバー」などの製作が可能になりました。さらに、1980年代後半にはコンピューターグラフィックも取り込まれて「スターウォーズ」や「ロードオブザリング」など大作が目白押しになってきました。
日本での設立が遅くなった裏には、1980年代のバブル期には景気の良さから海外ロケが多用され日本では、1989年に「ブラックレイン」の撮影が行われましたが、撮影を支援する制度がなく、街なかでの撮影は困難を極めました。海外での撮影では現地のフィルムコミッションがサポートしていることに気づいた制作人たちは、日本でもそういった制度の必要性を感じはじめていました。それ以降、日本には2000年になって神戸、大阪、横浜、北九州に設立され、今日では全国に350のフィルムコミッションが設けられています。
フィルムコミッションに求められる要件は3つあります。非営利公的機関であることで製作側と対等な関係性をもつこと、ワンストップサービスを提供しお役所仕事のたらい回しを避けること、表現の自由を尊重して作品内容を選ばないことがあげられます。
神戸フィルムオフィスは、1995年の震災からの復興を掲げ、映画作品を誘致して神戸の姿を発信することを目的に、2000年9月に設立されました。
具体的な設立目的としては、⓵直接経済効果として、撮影隊の大人数が宿泊し生活することやガードマンやエキストラへの人件費などが見込まれます。⓶地域の魅力発信として、撮影現場が聖地になるなど新たな観光資源ができる。⓷文化振興として、芸術制作やプロモーションによる地域意識の向上。⓸間接経済効果として、作品発表後の聖地巡りなど観光需要やグッズ作成による購買。⑤市民の誇りとして、作品が市民の心に残り、地元紹介の素材となる。などがあげられます。
フィルムオフィスの仕事としては、ロケの誘致からロケ地紹介や提案、リサーチ協力として歴史考証や当時の写真提供、地域に支障が生じないよう撮影支援を行い、PR協力などがあり、最近ではプサン映画祭での映像マーケットに参加するなど営業も行います。
事例としては、「るろうに剣心」に北区の淡河にある本陣跡を紹介し、とくに茅葺家屋の建築と炎上企画の支援があり、「キングダム」では有馬の特殊な地形を利用し、NHK朝ドラの「おむすび」では水道橋商店街や六甲山からの展望台が舞台にされました。
こうした神戸案件は、製作者側にリピーターが多いのが特徴です。長期滞在による撮影と市の施設利活用や市民の理解と協力があり、坂道と高台からの眺望などが魅力です。多忙なタレントの起用には、新幹線利用で新神戸駅から現場に近いのも便利な点だと思われます。シーンによって必要なエキストラ等、サポーターとして1万5千人の市民が登録されており、作品に見合った人材の提供が可能になっています。
こうしたフィルムコミッションは公式の手続きを踏まえたものですが、最近の民放各局が企画するアポなし街ロケや心無いユーチューバーによる事前調整なしの撮影活動には批判も多く、これからの大きな課題になってきているのも現実であり、考えていきたいところです。
神戸フィルムオフィスのホームページには、これまでに関わった映像作品の事例紹介もあります。あなたのお気に入り映画が「ローマの休日」のような神戸の素敵を届けてくれたらと願っています。




