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【第142回酒蔵文化道場】日本最古の湯 有馬 <レポート有>

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≪酒蔵文化道場とは?≫

第142回
酒蔵文化道場

≪題目≫
日本最古の湯 有馬
-1400年の歴史を90分で語る-

≪語り手≫
一般社団法人 有馬温泉観光協会
会長
金井 啓修 氏

≪内容≫
世界に約6,000ある温泉地のうち、およそ半数の3,000か所が日本にあります。
その中でも有馬温泉は、世界で唯一の特別な泉質を持ち、圧倒的な歴史を誇ります。
歴史学の先生は記録に残ることしか語れませんが、私は有馬最古の宿の主人として、
文献にない魅力も“湯(言)う”ことができます。
有馬温泉の魅力を、より多くの方に知っていただきたいと願っております。

有馬温泉観光協会についてはこちらをご覧ください。
有馬温泉観光協会

≪開催について≫
◆2025年6月6日(金) 16:00〜

講演レポート
作成:鷲尾圭司氏

≪経歴≫
神戸市・有馬町生まれ。北海道定山渓温泉で修行、1981「御所坊」社長に就任。2010観光庁「観光カリスマ」に認定、2016「有馬温泉観光協会」会長に就任。
最近ひげを蓄えるようになったが、インバウンド客の多くはアニメやジブリのファンが多く、カリスマ監督のイメージに寄せている、という遊び心をにじませて温泉地のまちづくりに取り組んでいる。

≪講演レポート≫
温泉地というと火山の近くと思われるが、都に近い畿内地方には火山は少なく温泉には縁がないかと思われるが、そんな中に有馬温泉が湧く。京の都や大阪にとって至近の便利な保養地として愛されてきた場所だ。
温泉とは、温泉法(1948)に「地中から湧出する温水、鉱水、水蒸気その他のガス」であり、「温度は摂氏25度以上」で、「指定された物質が含まれていること」が条件になっている。
日本三古泉といえば、有馬、道後、白浜があげられ、「古ぼけた」というものではなく「歴史がある」という意味の温泉として知られる。また、日本三名泉といえば、諸説あるが有馬、草津、下呂があげられている。いずれにも有馬があげられることは、それだけ多くの著名人が訪れ、親しまれてきた表れだろう。
有馬温泉は、環境省が療養泉として指定する9つの成分のうち7つ(単純性温泉、二酸化炭素泉、炭酸水素塩泉、塩化物泉、硫酸塩泉、含鉄泉、放射能泉)もの成分が含まれている。これが他に類のない有馬温泉最大の特徴だ。一方、草津温泉の泉質は酸性。下呂温泉の泉質は、アルカリ性の単純温泉で、名泉にも特徴の違いがある。
火山性ではない有馬温泉は、プレート直結温泉と呼ばれる。アジア大陸が乗っているユーラシアプレートの下にフィリピンプレートが潜りこんでいる。ちょうど日本列島の下に潜りこむときに太平洋の海水も引き込んでおり、600万年をかけて有馬の地下60kmに至っている。その高圧下で高熱となった温泉は断層に沿って上昇し、有馬の湯の口に自噴していたという。今では地下200mから井戸でくみ上げられている。塩分は6%と海水の倍ほどの高張泉で、100℃を超える源泉となっている。
有馬温泉の歴史は1400年前、奈良時代の日本書紀などに記載されており、蘇我馬子や欽明天皇も訪れたとされている。日本書紀や古事記は神話の時代ともいわれ、日本の神々によって発見されたということもできるだろう。また、奈良時代には天然痘の流行があり、行基らによって仏教とともに温泉療法も伝えられ、湯治という役割も見いだされた。
御所坊は、鎌倉時代に「湯口屋」として創業。この地に住む家人として、日々の仕事とおもてなしの心で、八百年以上もの間、訪れる人々にひとときの安らぎを与える旅籠をご用意してきた。
天然の温泉には温泉スケールという目詰まり問題があります。温泉には様々な成分が溶け込んでおり、その成分同士が温度や圧力や環境の変化で結晶化したものが温泉スケールです。これが火山の活動に伴う温泉の場合は、温泉施設の配管での問題になりますが、有馬のような断層によって成り立つ温泉の場合は、温泉の流路が目詰まりすると温泉寿命に関わります。
実はここに400年サイクルの大地震が働いて、有馬温泉の長い寿命を保ってきたのでした。701年の丹波地震、1185年元暦大地震、1596年慶長伏見大地震、1995年阪神・淡路大震災と見て来ると、400年ごとに有馬の地下は揺すぶられて温泉の目詰まりを解消してくれたとも考えられる。大陸プレートの動きと連動したものだと理解できるだろう。
さて、日本各地にある温泉地をみると、湯布院や黒川など人気を集めるところもあれば、関東のかつて栄えた温泉地がゴーストタウンになるなど、温泉地観光にも時代の変化が表れている。阪神淡路大震災に東日本大震災など大災害、コロナ禍や国際紛争の増加など時代背景も大きく変わってきている中、有馬では観光協会を中心に国際温泉リゾートを目指して動き出している。
阪神淡路大震災の後、35位であった有馬は2003年にはベストテン入りを果たしている。かつての温泉地といえば大旅館の中にお客を取り込むことが多かったが、温泉地の総合力を生かすには街角に出歩いてもらうことが大切だと方向転換した温泉地が注目を集めるようになった。そこで有馬でも江戸時代の街並みを再現する有馬千軒プロジェクトや元禄時代の上方落語の始まりといわれる「有馬の身すぎ(しょんべん)」を復活させるなど、相次ぐ仕掛けで観光地の隅々にも光を当てる工夫を重ねている。
料理の世界で「有馬煮」といえば山椒を用いた料理のこと。有馬山椒も復活を目指しており、淡河の農場で再生を図っている。