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12月のうまいもん/淡路島三年とらふぐ

今月のうまいもん

106_淡路三年とらふぐ01

長く育てる事で、旨みも歯応えもあるふぐに

「河豚(ふぐ)は食べたし、命は惜しし」。これは江戸時代の俳諧論書「毛吹草(けふきぐさ)」に載っているふぐを題材にした句で、物事をふぐに例えた成句です。ふぐを食べたいという、旨いものへの誘惑にかられながらも、それに伴うリスクに踏み切れず迷っている様を上手く詠んでいます。昔は今ほどふぐ処理の確実性が低かったためにこの句のような思いで美食にトライした向きも少なくありません。
 このような躊躇(ためら)いを嘲笑(あざわら)うかのような句も存在します。「河豚(ふぐ)食う馬鹿(ばか)河豚食わぬ馬鹿」がそれで、毒を持つふぐを食べて命を落とすのもバカだが、怖がってその味を知らないのも愚かだと皮肉を込めて詠んだもの。また「河豚(ふぐ)に当たれば鯛にも当たる」との句もあって、ここでは運が悪ければ、鯛のような魚でも災難に遭うのだと指摘しているのです。
 日本でのふぐ食の歴史は古く、縄文時代の貝塚からふぐの骨が見つかっているくらい。当然この頃はふぐの毒のありかはわかっておらず、ただただ危険な魚として認識されていたのかもしれません。ところが、安土桃山時代に豊臣秀吉が朝鮮へ出兵させた折りに、その兵士達が九州でふぐを食べて中毒死が相次いだために、秀吉は怒って河豚食禁止令を発し、以来江戸時代を通じてふぐ食を禁じていました。それが明治21年(1888)に伊藤博文が下関の「春帆楼」でふぐを食べて「こんな旨い魚を禁ずるとは!」とばかりに山口県に限ってその禁を解きました。これが今のふぐ食の始まりです。当初は山口県のみに限って出されていたふぐ食ですが、兵庫県は大正7年(1918)にふぐ食を認め、大阪府もようやく昭和16年(1941)に晴れてふぐが食べられるようになったのです。
 ふぐ食解禁は遅かったものの、あの淡泊な味を好んだのか、大阪人は部類のふぐ好きに。ふぐの産地でもないのに、ふぐの消費量はトップで、なんと全国の6割もが大阪府下で食べられているようです。近隣の兵庫県や京都府も含めればかなりの数で、ほとんどが関西人のお腹に入っていると言っても過言ではないのかもしれません。
 かつては天然のとらふぐがグルメに持て囃されていましたが、近年は技術も進み、養殖のとらふぐに価値を見出す向きも出て来ました。その一例が淡路島の南あわじ市・福良で産される「淡路島三年とらふぐ」でしょう。福良港では約40年前からとらふぐの養殖に取り組んで来た歴史があります。実績が上がるようになったのは20年くらい前から。「若男水産」の前田若男さんがとらふぐを一年余計に養殖する事に踏み切り、その産物に高い評価が得られるようになったからです。一般的にふぐは二年間の育成と相場が決まっています。ところが「若男水産」では、三年育成してから晴れて出荷をします。一年長く育てると、その間に死んでしまう個体もあって当然リスクは生じるのですが、海峡の激しい潮流に長くもまれているのもあって旨みも歯応えもアップするそうです。養殖魚特有の黒い筋も消えて天然とらふぐに見劣りしないような魚になります。二年ものだと800gくらいの大きさですが、三年ものとなると、1.2〜1.5kgにも。単に身体が大きくなるだけではなく、味も濃厚に。身の締まりもよくなって噛めば噛む程に滋味深い味わいが楽しめるようにさえなるのです。
 ところで全国のふぐ養殖ランキングを見ると、①長崎②熊本③大分④佐賀⑤香川で、その後に兵庫・愛媛・福井と続きます。第6位にまで養殖ふぐの生産量を高めているのは、福良港の淡路島三年とらふぐが要因。お魚養殖大国・九州には及びませんが、年間約140t、全国の3.7%のシェア(令和2年の農林水産省による養殖生産量調査の調べ)とは凄い数字です。どれだけ淡路島三年とらふぐの味が高く評されているかが、この数字を見てもわかります。
 さて、「さかばやし」では、今年も12月のうまいもんに「淡路島三年とらふぐ」をテーマ食材としました。会席料理の一部や一品料理だけでなく、淡路島三年とらふぐのてっちり鍋(要予約)もお楽しみいただけます。ぜひこの機会に南あわじ市が誇る名産品に舌鼓を打ってみませんか。

(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2025年12月

料理長おすすめの「淡路島三年とらふぐの一品」
とらふぐ料理・純米吟醸しぼりたて01cs
■淡路島三年とらふぐ徳利蒸し  1,000円
■淡路島三年とらふぐ薄造り   1,800円
■淡路島三年とらふぐ唐揚げ   1,800円
■淡路島三年とらふぐ小鍋    2,800円
■   追加 雑炊セット      800円
※おすすめの一品は前日15時までのご予約にて承ります。
※価格は税込価格です。
※写真はイメージです。