神戸酒心館

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1月のうまいもん/神戸の苺

今月のうまいもんさかばやし

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二郎(にろう)を代表に神戸苺は、全国に聞こえた神戸農産ブランドの一つ

 意外に思われるかもしれませんが、神戸は農業王国で、軟弱野菜やイチジク、苺が農産物として有名です。その生産を担っているのは、神戸市西区と北区の農家。農地が広く消費地に近いために多くの野菜が栽培されています。また、スイーツ王国でもある神戸にとって苺は重要な食材。ケーキはもとより、加工したお菓子にも多用され、日本料理店でもデザートに神戸産の苺をよく活用します。
 歴史を紐解くと、平安時代の「延喜式」に苺が登場しています。ところが、それは野苺を食用にしていた事を意味しており、現代の苺ではありません。現代の苺は、当然外国から来た苺。18世紀にオランダにて、南アフリカ産のチリ種に北アメリカ産のバージニア種を掛け合わせた苺が我々の食している苺のルーツだそうです。江戸末期にもオランダ苺と呼ばれる苺が伝わっていますが、その栽培の基礎を成したのは、やはり明治時代以降。フランスから入って来たジネラル・ジャンジー種をもとに育成した「福羽」がそれだといわれています。戦後に「ダナー」がアメリカから入って来て苺栽培は全国的に広がって行きます。一時は東の「女峰」、西の「豊の香」といわれる時代もありましたが、今は東の「とちおとめ」、西の「さちのか」などがリードしているのではないでしょうか。
 神戸の苺といえば、最も有名なのが北区の「二郎苺(にろういちご)」。大正10年頃に旧武庫郡鳴尾村から苗を持ち出して旧有野村二郎で試作したのがその始まりだそう。昭和35年頃には兵庫県農業試験場宝塚分場で育成された「宝交早生」を導入。露地栽培からハウス栽培へと主流が移って行きました。ちなみに「宝交早生」は、昭和50年代に大流行し、全国の6割がこの品種になっているくらいです。
 現在、神戸産苺の主流を成すのは「章姫(あきひめ)」でしょう。「章姫」は、「久能早生」と「女峰」を交配させた品種で、静岡の萩原章成さんが作り出し、平成4年に品種登録されたもの。大半の苺が横幅のある円錐型なのに対し、「章姫」は縦長の円錐型。果実は柔らかで口当たりがよく、果汁も豊富で、酸味が少なくて甘みがあるのが特徴です。ただ柔らかいので遠距離の輸送には向きません。消費地が近い都市近郊型の苺といってよく、神戸では栽培が適していると思われます。その他、「紅ほっぺ」や「さちのか」も神戸でよく栽培されている品種です。
 二郎で話を聞くと、「昔は副業的に始める所が多かった」そうです。当時は今のように直売もなければ、苺狩りもなかったので、ほぼ全てが市場に出荷されていたといいます。昭和40年代ごろから有馬街道の交通量が増加。それによって観光苺園がお目見得し、市場への出荷型から直売型へと移行。次第にそのニーズが高まって、今では「二郎苺」といえば高級品に成長してしまいました。この二郎の苺が牽引したのか、北区や西区でも苺づくりが盛んになって今では神戸産苺は有名なブランドに成長しています。
 ところで「さかばやし」では1月、神戸産苺にスポットを当て、食後の甘味はもとより会席料理の一品でもお楽しみいただく予定です。地元・神戸の農産ブランドの一つ、神戸の苺をこの機会にぜひご賞味ください。

(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2022年1月
 
料理長おすすめ「神戸の苺」の一品
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※神戸産苺は1月中旬より入荷予定です。

※おすすめの一品は予約にて承ります。価格は税込価格です。
※写真はイメージです