神戸酒心館

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1月のうまいもん/須磨海苔

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さかばやし_今月のうまいもん_須磨海苔入稿用

意外に知られていない神戸の冬の名産品

 異文化や西洋料理、スイーツに中華料理と神戸を象徴するアイテムは、数多くあります。ところが、神戸と第一次産業を結び付けるのは困難で、少し縁遠い存在のように誰もが思っているのではないでしょうか。実は、神戸はれっきとした農業大国で、殊に軟弱野菜や苺、いちじくなどは有名です。漁業においてもイカナゴ漁を始め、海苔漁と盛んなのです。最近、神戸市の農林水産課の押しは、須磨海苔と苺、北神葱だとか。中でも海苔は、明石や淡路島・北淡に産地があるようにいいものが採れるとの評判もあり、「兵庫海苔」はブランドにもなっています。
 そもそも海苔とは、紅藻、緑藻、藍藻などを含む食用藻類を総じて指します。日本人にとっては古くからなじみのあるもので、その昔の「常陸国風土記」(奈良時代)にも登場します。「大宝律令」では、海苔が租税の対象とされており、平城京には海草を売る「にぎめだな」や海苔・昆布を加工して売る「もはだな」なる市も出ていたそう。余談ですが、「大宝律令」が702年2月6日に執行されたことにちなみ、2月6日が海苔の日になっています。
 海苔というと、関西人は味付け海苔を思い浮かべるようですが、これは明治天皇の献上品がルーツ。京都行幸の際、皇太后への東京土産として何かないかと「山本海苔店」が相談されて開発したもの。大森界隈(東京)で味をつけた海苔が試されていたのに適応したと伝えられています。「山本海苔店」が山岡鉄舟を介して明治天皇へ届け、東京土産として関西に持って帰りました。そのような理由から関西に味付け海苔が根付いたと思われます。海苔は、生海苔、板海苔、切海苔、刻み海苔、味付け海苔がありますが、中でも生海苔は、海から採った状態のままをいい、寒冬の頃に採れるものが歯応えもあって香りもよく、旨いとされています。ちなみに生海苔を乾燥させたのが乾海苔で、それをもっと乾燥させると焼き海苔ができるそうです。
 兵庫県の海苔生産は、佐賀県の有明に次ぐシェアで、明石浦漁協では兵庫海苔から派生させ、明石海苔なるブランドをつけて差別化しています。それに続けではないですが、神戸市漁業協同組合でも「須磨海苔」を2007年から地域ブランドとして商標登録してその訴求に努めているため、前述のイチ押し産物に挙げられるようになったのでしょう。海苔の養殖は、浅瀬に支柱を張って育てるのですが、瀬戸内では水深があるためにそれが行えず、ブイを浮かべて網を張り、海苔の胞子を育てます。この手法では、海中に浸ったままなので色も濃くなりますが、栄養価もたっぷり吸って育つ利点もあるようです。
 神戸の漁師は、その昔、魚の水揚げ量が多くあったため海苔の養殖をしなくてもよかったそうですが、昭和30年代に入ると、漁獲量が激減し、冬場の収入源として海苔養殖を行うようになりました。それが須磨海苔ができたきっかけです。そのため歴史は比較的新しいと言えるでしょう。歴史が浅いとはいえ、大阪湾の豊富な栄養と明石海峡の潮の流れでアミノ酸やタンパク質を多く含み、肉厚という須磨海苔の品質の高さは言うまでもありません。ぜひ、この機会に「旬」の味わいをお楽しみいただこうと、さかばやしでは1月に「須磨海苔」をテーマ食材としてご紹介する予定です。店には生海苔の状態で入荷するため、調理場ではできるだけ空気の触れを少なくし(空気に触れると色が変わる)、袋へ入れて冷凍保存。その時々に必要なだけ出して使用します。生海苔のいくつかは佃煮にすることが多く、酒・醤油・みりんなどで煮込んで作ります。新鮮な須磨海苔を神戸の冬の名物として「さかばやし」では、生海苔の状態で粕汁に入れ、磯香漂うものとして提供したり、佃煮として提供する予定です。今月は、会席料理の一部や、単品(粕汁)にも使用しますので、ぜひこの機会にお召し上がりください。

(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)

料理長おすすめ「須磨海苔」の一品
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■粕汁小鍋 須磨海苔とともに  1,300円
■須磨海苔佃煮           500円
■須磨海苔の出汁茶漬け       650円
※おすすめの一品は予約にて承ります。価格は税込価格です。
※写真はイメージです