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9月のうまいもん/おじろ鹿

農業の現場では獣害が深刻な問題となっています。先日も奈良市が鹿による農林業被害が酷くなったために保護エリア外での鹿の捕獲を発表しました。奈良では古来から鹿を神(しん)鹿(ろく)と呼び、神の使いのように扱って来ました。ましてや春日大社と奈良公園一帯にいる鹿は天然記念物に指定されており、観光的要素にもなっているために他地域のそれとは違うのです。エリア外とはいえ、その鹿を捕獲するのですから余程の農作物の被害があったのでしょう。
 こういった獣害は、奈良市に限ったことではなく、日本各地で問題になっています。猪でも同様の被害が出ていますが、殊問題になっているのは鹿の方。猪は冬場のボタン鍋に代表されるように駆除しても食材として用いることができるのですが、鹿に至ってはフランス料理において“ジビエ”として使用しているくらいで、駆除しても使い道が見つからず、素材としてのアピールもできていないのが現状です。これが和食でも活用例を示すことができれば、鹿肉の用途も広がりが期待できるのですが…。
 日本料理での鹿肉の料理例を示すべく「さかばやし」では数年前から鹿料理に取り組んでまいりました。焼いたり、炙ったり、揚げたりしながらその調理法を模索し、会席料理の献立に加えています。食したお客様からは「肉が柔らかくて旨い」「臭みもないので抵抗なく味わえた」「脂肪分が少なく、ヘルシーな素材として認識した」など色んな声が聞かれ、好評を博しています。
 さて、今年も鹿料理の季節がやって来ました。一般的にジビエというと、冬場のもののように思われがちですが、これには狩猟時期が影響しており、冬に狩猟解禁になるためにどうしても寒い季節の印象が強いのです。鹿は、8月だけ脂をたくわえる習性があるので、8~9月に罠で駆除したものを捌いて冷凍で寝かせたとなると、やはり9月中~下旬あたりが旨くなると考えても不思議ではなく、そのためさかばやしでは9月の素材を「夏鹿の鹿肉」に定め、9月28日(木)にそれを用いた「旬を堪能する会」を企画しています。
 使用する鹿肉は、兵庫県・小代(おじろ)地区のもの。小代は、但馬の香美町に位置する地域で、町の有志でNPO法人「峰(ほう)鹿谷(ろくや)」を立ち上げ、鹿肉や猪肉の処理加工を行っています。今回もここから直接に鹿肉を仕入れ、素材の確かなものを調理する予定になっています。農作物被害をなくすのが目的で駆除した素材なので鉄砲を用いずに捕獲しているのが特徴。罠でつかまえる方法の場合、鉄砲で撃ったのと違って暴れずに捕獲できるために、捌いた時に肉が臭くならないことが大きな利点です。
 鹿肉は単に淡白な印象が強いですが、小代の鹿肉は時季的なものも考慮すると、脂も少し乗って食べやすく、おまけに低カロリー、高タンパクとあっては、なかなかの名素材といわざるをえません。9月のうまいもんは、この小代から直送された小代鹿をピックアップ。会席料理や一品料理にて、ぜひ味わってみてください。

(フードジャーナリスト・曽我和弘)

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