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3月のうまいもん/明石 いかなごのくぎ煮

神戸の春の風物詩を酒蔵ならではの味わいで楽しむ
くぎ煮神戸の春の風物詩といえば、近年ではいかなごの釘煮でしょう。早春にはスーパーでそれを作るセットが売り出され、市内の郵便局でもタッパーといっしょに詰めて送るシステムが大々的に掲出されます。このことでもわかるように神戸の各家庭では各自が作ったいかなごの釘煮を遠くの友人に送る習慣が当たり前のように行われるようになりました。
こんな風習が広まったのは、20年くらい前から。以前は長田や垂水、明石、淡路島ぐらいの家庭で細々と行われているにすぎなかったのです。それを今のようにブームにしたのは、当時、林崎漁協にいた鷲尾圭司さん(現在は下関の水産大学校理事長)と東灘に住む料理研究家の坂本廣子さんだったと思われます。それまでは漁師がいかなごの新子を飼料用に狙って獲るぐらいで、釘煮なんてごくごく少ない消費量だったのですが、二人が“地産地消″の言葉とともに春に釘煮を作る風習を広く根づかせるように喧伝したと記憶しています。
そもそもいかなごは、「玉筋魚」と書くスズキ目イカナゴ科の魚。カマスに似ていることからカマスゴと呼ばれることもあります。垂水や明石では、このいかなごの稚魚を新子(しんこ)、成魚を古背(ふるせ)と呼ぶのですが、釘煮に用いるのは新子のほう。12月〜1月ごろに底砂に産卵したものが生まれ、少し大きくなる頃(2月下旬〜3月上旬)を見計らって醤油、みりん、砂糖、生姜などを使って水分がなくなるまで煮込んで佃煮にしていきます。その小魚の姿が茶色く曲がっていることから錆びた釘を想像するというので釘煮と名づけられたそうです。
いかなごの釘煮は、垂水漁港発祥説と塩屋発祥説があるようですが、真偽は定かではありません。ただ大正8年(1919)に魚屋を始めた塩屋の「魚友」では、1935年に別荘地に住んでいた人からいかなごを佃煮にしてと依頼され、醤油、砂糖、生姜を用いて試行錯誤しながら作ったと話しています。
いかなごの新子は弱く、水揚げされても時間がたつと腐ってしまいます。そのためでしょう、かつては長田より東には行かないとさえいわれていたぐらいなのです。
20年以上前は、海苔養殖が終わり、5〜6cmに成長した新子を漁師が獲って飼料に使うにすぎなかったのが、明石浦漁協婦人部や県漁連が消費振興による収益アップを図るために、喧伝に協力したので次第に一般化していきました。何でも神戸の震災被災者が支援してもらった人へお礼として送ったことでその名称と味が広まったといわれています。
いかなごの釘煮がブームとなり、今ではどこでも作って売り出していますが、それぞれが同じような作り方をしても、ちょっぴり味が違うのがその面白さ。そこで「さかばやし」でも今春はオリジナルのいかなごの釘煮を作り、会席コースの中に加えたり、店での土産物としてお楽しみいただこうと企画しました。せっかく酒蔵のそばにある日本料理店で作るなら、調味料にはそこで産された酒を用いるべき。「さかばやし」の料理長加賀爪は、いかなごの新子を醤油、みりん、ざらめと日本酒を用いて作っているのですが、純米酒や本醸造酒ではなく「福寿」貴醸酒(超甘口)で甘みを持たせているのがオリジナリティ。それらで調味し、山椒を入れてピリッと辛みを持たせたものと、クルミなどのナッツ類を加えて食感よくした2種類の釘煮をご提供します。前者はごはんの友として、後者は酒のアテとしてうまくフィットするはず。3月はオリジナルのいかなごの釘煮を店で供しますので、ぜひ味わってみてください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
■いかなごの釘煮 三種食べ比べ  600円
(有馬山椒・檸檬・くるみの3種)

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