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10月のうまいもん/丹波の黒大豆

殿をびっくりさせた丹波黒の味黒豆

10月初めに篠山の黒枝豆が販売解禁になります。そうすると、やおら市場は黒豆でごったかえし、産地はもとより、巷の飲食店までが丹波の黒豆で活気づきます。至る所で黒枝豆が売り出され、中には篠山産と偽って売られる紛い物さえ出る始末です。まさに黒豆狂騒曲のような感じです。  そもそも黒豆は、大豆の品種の一つで、種皮にアントシアニン系の色素を含み、外見が黒色になったものを指します。7月初めに種を植えつけ、8月に花が咲き、9~10月頃に実をつけるのです。実は段々と黒づき、中生種は10月上旬~11月上旬に、晩生種でも11月半ば~12月上旬には収穫されます。そのうち最も人気を博すのが黒く色づく手前で、10月に収穫される枝豆は評判が良いといわれています。  それらの黒豆の中でも丹波産は、篠山や京丹波町で産され、殊に丹波黒と称されるものは値段も高く、高級品として扱われます。今でこそ、丹波黒の名称は轟いていますが、昔はそこまでではなかったのでしょう。丹波の黒豆を有名にしたのは川北黒大豆。江戸期に篠山藩主が狩りで川北の地に立ち寄った折りに庄屋宅でそれを食べたのがきっかけと言われています。山本彌三郎が昼食にと提供した黒大豆を殿様はいたく感激して味わい、後日将軍にその黒豆を献上したそうです。その味たるや、江戸の人達にはびっくりするほどのものだったようで、将軍家から直参、そして市民へと段々と広まって行ったと伝えられています。  以来、丹波黒の名が全国的に轟いたとのことですが、篠山の農家も品種改良には熱心だったようで江戸後期から明治期にかけて日置村の波部六兵衛と波部本次郎の手により、優良な品種が作られています。  黒豆というと、食べ方はやはり枝豆か、煮豆。主に砂糖と醤油を用いて煮る調理法は、おせち料理の定番です。アントシアニン色素の発色をよくするために煮汁に赤さびが浮いた鉄釘と少量の重曹を加えるやり方は、江戸の高級料亭「八百善」が考えたとされています。  戦後になって料理研究家の土井勝さんが考案したのは、鍋に熱湯と調味料、重曹を合わせ、そこに洗った黒豆と鉄釘を入れてそのまま置き、一旦煮立ててアクを取り、弱火で煮詰めたらそのまま置いてゆっくり味をふくませるやり方。土井勝さんはこの調理法を15年がかりで考案したというから、その探求心には恐れ入ります。  そんな黒豆をおせち料理に用いるのは、まめに暮らせるようにという駄洒落。なんともはや、土井勝さんの苦労が浮かばれません。とはいえ、黒豆は古くから健康面で注目されていたのも事実。江戸期の「和漢三才図会」には、腎臓の機能を高め、血液の循環や水分代謝をよくし、解毒・解熱に効果的と書かれています。そう考えると駄洒落よりも、健康食材としておせち料理に使われていたと考えるべきでしょうね。  …というわけで10月の「さかばやし」は、旬を迎えた黒豆を注目することにいたしました。会席料理にも用いますし、勿論、一品料理として黒豆の枝豆も登場します。丹波産を使用し、解禁後はブランド品ともいうべき篠山産を入荷させる予定です。秋の丹波の味覚といわれる黒豆をぜひこの機会に味わってみてはいかがでしょうか。 (文/フードジャーナリスト・曽我和弘)

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