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9月のうまいもん/小代の夏鹿

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「この時季に鹿肉を食すことが農家への一助となる」 

 
 但馬の山あいに"小代(おじろ)"と名づけられた地域があります。正式名称は、兵庫県香美町小代で、先の市町村合併の際に香住町と村岡町が合併し、香美町となりました。その際に、小さい田んぼを意味する小代なる地名を復活させたようです。この小代という場所は、日本で最も美しい村と称しており、殊に「うへ山」の棚田は日本の棚田百選にも選ばれるほど風光明媚な所です。田植えの時季から稲穂が伸びる秋までは、美しき一瞬を納めようと、写真愛好家達が沢山この地を訪れます。町ではその美しい風景を万人に伝えるべく、フォトコンテストなどを開いています。また、この地は但馬牛の故郷としても有名です。かつてここで生まれた田尻号が、今の但馬牛の根源となっており、日本の黒毛和牛の繁殖雌牛がこの一頭から出たともいわれているほどなのです。
 ところで今回は、同じ小代でも但馬牛ではなく、鹿の話をいたしましょう。私が小代鹿のことを知ったのは数年前のことです。兵庫県からの獣害問題提案がきっかけでした。鹿は愛らしい動物のように我々には映っていますが、実は農家にとって天敵のような存在です。せっせと育てた農作物を鹿や猪が来て一瞬のうちに喰い荒らしてしまうのです。そこで行政では、この獣害を何とかできないものかと、考えることになりました。小代の地元の人達でNPO法人「峰鹿谷(ほうろくや)」を立ち上げ、農作物を喰い荒らす鹿を捕獲し、その肉を都会へ流通させようと考えました。この時季まだ狩猟を解禁していないので、罠を仕掛けてそれを捕らえ、24時間以内に地元の処理場へ運びます。そこで内臓を取り除き、血抜きをして肉のみを冷蔵庫で吊り下げて保管するようにしました。こうすれば、下処理がうまく行くと共に鮮度のいい状態で保存ができます。しかし、ジビエ(野禽肉)は、牛肉や豚肉と違ってこのような処理場が整備されていないためにいい状態で流通するものは多くないとの話も聞きました。
 ところが、いかに鹿肉をいい状態で市場へ流通させても日本ではフランス料理ぐらいしか需要がないために需要と供給のバランスがうまく合いません。もっとジビエに親しんでもらえたらというのが小代鹿生産者の願いでもあったのです。
 そこで和食で鹿肉をうまく調理できる例を示せば、少しでも広がりが持てるのではないかと思い、「さかばやし」では数年前からこの時季に鹿肉料理を提供するようになりました。ある年にお客様からできれば「旬を堪能する会」でも小代鹿をテーマに献立を組んで欲しいと声があがり、それを実現すべく一昨年からは「おじろの夏鹿とひやおろしを楽しむ会」を開催しています。一品料理や会席料理にも鹿肉を取り入れて9月の献立を構成しています。
 ジビエといえば、冬と相場は決まっていますが、この時季に行うのがミソで、しかも価値のあるものなのです。夏から秋にかけては農作物が育つ時季。ここで獣害を防ぐべく捕獲するのが地元農家を助けることにつながります。そして消費者には嬉しいことに、鹿は8月の一カ月間だけ脂を蓄えます。ヘルシーとはいえ、脂ののった方が美味しいはずです(それでも牛肉や豚肉に比べればかなりヘルシーです)。鹿肉は獲れたてを食べませんので、8月に捕獲し、下処理した上で、少しの間冷蔵庫保存して熟成具合が良い頃を見計らいます。そうして出荷されるのがまさにこの時季なのです。鹿肉は低カロリー素材として注目され、しかも高タンパク質です。おまけにジビエ通が美味と称する脂がのるこの時季のものを食べる機会はそう多くありません。まして日本料理となると尚更のことです。ぜひこの機会に「さかばやし」にてお召し上がり下さい。
 
 

料理長おすすめ「おじろ鹿」の一品
・おじろ鹿の炙り     1,600円    
・おじろ鹿のはりはり鍋     2,200円
・おじろ鹿ソーセージ     1,000円
・おじろ鹿ハムのカルパッチョ  1,300円

※価格は税込みです
※おすすめの品は変更の場合もございます。

(フードジャーナリスト・曽我和弘)

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