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8月のうまいもん/兵庫県産のいちじく

実は神戸のいちじくは、評価の高い果物なんです
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 “無花果”と書いて「いちじく」と読みます。いちじくは、クワ科イチジク属の落葉高木。旧約聖書でアダムとイブがこの葉っぱで腰みのを作った話は有名で、中国でも不老長寿の果物と考えられたりと、昔から人のそばにあった果物と考えてもおかしくはありません。現に新石器時代の遺跡から炭化した実が出土。世界最古の栽培品種化されたものではと考えられているほどです。いちじくを‟無花果”と書くのは、花を咲かせずに実をつけるように見えることから。そもそもはアラビア南部のものですが、シルクロードを経て中国に伝わり、江戸時代に日本へとやって来ました(ヨーロッパから長崎に伝わったとの説もある)。その当時の日本では蓬莱柿(ほうらいし)とか、南蛮柿、唐柿と呼ばれていたようで、どうやら字を見ても江戸期の日本人は柿の一種だと思っていたのではないでしょうか。
 イチジクが日本に入って来たのは、寛永年間(1624〜1644)といわれていますが、この時代では果皮が紫のものと、黄色もしくは黄緑色のものが栽培されており、明治初期にはそれが四種になり、明治末期から大正時代にかけては、さらにアメリカから多くの種類が入って来たそうです。面白いのは葉の形でどの時代に入って来たものかわかること。浅く三裂したのは江戸時代に、深く五裂して裂片の端が丸くなっているのは明治時代より後に日本に伝わった種だそうです。
 ところで兵庫県が名だたるいちじくの産地だということをご存知でしょうか。いちじくの産地は、西三河(愛知)、稲敷(茨城)、西伯(鳥取)、大和郡山(奈良)、城陽(京都)などなど。最も産されるのは愛知県で、次が和歌山県、その次が福岡県となっています。これらの産地にいっしょにランクインされるのが川西市と淡路市(ともに兵庫県)で、中でも川西はいちじくの名産地として有名です。
 国内で売られているいちじくの中で最もメジャーな種が「桝井ドーフィン」。日本の約8割がそれだといわれているので、まず食べていない人はいないでしょう。この「桝井ドーフィン」は、明治42年に広島の桝井さんが、海外からドーフィン種を持ち帰ったのが始まり。栽培がしやすいことと、持ちのよさから全国に広まりました。川西でもこの「桝井ドーフィン」を栽培。やがて神戸や伊丹でもそれが作られるようになり、産地として有名になっていったのです。実は神戸も川西とまではいかないまでもいちじくの名産地。年間に約700tが出荷されていると聞いています。農業のイメージが薄い神戸も見渡せば北区や西区には田畑が多く、美味しいいちじくが産されてもおかしくはありません。
 意外と我々神戸市民は、普段口にするものが神戸産と知らないことが多く、その価値の高さも知らぬまま食卓に置いているのですが、香港のバイヤーはいち早くその美味しさに目をつけ、神戸や淡路島のいちじくを百貨店で販売できるよう買い付けているのだとか。試験的に置いたところすぐに売り切れたとの話もあるようで、いずれは香港の百貨店、スーパー、和食店などが神戸のいちじく争奪戦に乗り出すかもしれません。
 神戸のいいものは、外が評価するよりまず内なる消費で―。そんな言葉を思い浮かべたので今月は「さかばやし」でも神戸や川西のいちじくにスポットを当ててみることにしました。産地が近い分、美味しいものが入るのは確実で、JA兵庫六甲に協力をあおぎながら食後のデザートとして、また料理の素材やソースの一部にそれを使って献立組みをしています。いちじくは、消化作用を促す効果があるとされ、魚や肉との相性も抜群。ぜひこの機会に地元の産物を口にし、その美味しさを確かめてみてください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)

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